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2023.11.14更新

第2回全統共通テスト模試、全統記述模試の分析から見た医学部(医学科)の志望動向

気になる2024年度入試の予想を膨大な模試データからひもとき、留意すべき点をまとめました。

受験生の本格的なスタートの季節到来

秋が深まり、漂う空気はいよいよ入試に向けて臨戦の気配がして参りました。秋は受験生にとって、夏の学習成果がいよいよ結実する季節でもあります。夏の学習成果を感じる受験生がいる一方、成果がなかなか出ないことに焦りを感じる人もおられるでしょう。河合塾では11月には模試が目白押しとなります。毎週のように行われる模試に受験生は緊張の連続でしょうが、一つひとつ自分の達成状況を分析しながら有意義な1日を進めていきましょう。ここまで学習を継続してきたのですから「あと少しで成果が出る」と信じて学習を継続したいところです。
さて、河合塾では最大の母集団を誇る第2回全統共通テスト模試、及び全統記述模試の分析が進んで参りましたので、今回はその模試を通じて医学部(医学科)の志望動向がどうなっているか分析し、2024年度入試の予想をしてみます。

18歳人口(受験者人口)減少…医学科志望者は逆に増加

多くの報道で18歳人口が減少していることはご存知の方が多いでしょう。医学科に限定しないで入試全体を見回すと、先頃も私立大のおよそ53%が「定員割れ」となっており、大学が募集している募集区分を充足していないことが報道されています。近年、18歳人口の減少はそれだけ加速度的に進んでおり、「今の18歳」の保護者の方の受験生時代とは隔世の感があります。18歳人口は1992年がピークで、当時は210万人程度いました。それ以降18歳人口は減少し続け、現在ではその半分の106万人程度になってしまいました。ところが、大学定員は受験者人数の減少とは逆に増加傾向で進んでしまいましたから、いずれ定員割れの大学が登場するであろうことは避けられなかった結論だともいえます。

2019年頃までは「アベノミクス」と称される景気の上昇傾向がありました。好景気に支えられると「入試難度の高い学部は敬遠される傾向」があり、医学科志望者は次第に減少傾向となっていました。これは景気変動時にはよくあることです。
ところが、2020年の1月末に「新型コロナ」の発生で世界の経済と医療状況が停滞し、近年ではウクライナ紛争に端を発した世界同時の食糧・エネルギー資源不足の影響で日本経済にも大きな影響がではじめ、受験生の将来的な仕事選びの意識に影響が出始めました。具体的には、18歳人口の減少とは逆向きの「医学科志望者の増加傾向」という形にそれが出ています。2020年入試以降現在にいたるまで医学科志望者は再び増加傾向に転じています。もちろん、これは2024年度入試においても変化しないと思われます。

<グラフ1>

<グラフ1>2023年第2回全統共通テスト模試 国公立大医学科前期 志望者数のグラフ <グラフ1>2023年第2回全統共通テスト模試 国公立大医学科前期 志望者数のグラフ

上の<グラフ1>は夏の「第2回全統共通テスト模試」での「国公立大医学科前期試験の志望者」の数をグラフ化したものです。2020年のグラフが低いのは「模試の公開会場実施」がパンデミックのために開催できなかったためです。そこから徐々にグラフは高くなり始め、今年(2023年)のものは2019年ごろの志望者人数まで「V字回復」していることが分かります。

<グラフ2>

<グラフ2>2023全統記述模試 私立大医学科 一般選抜志望者数のグラフ <グラフ2>2023全統記述模試 私立大医学科 一般選抜志望者数のグラフ

次の<グラフ2>は夏の「第2回全統記述模試」での「私立大医学科 一般選抜の志望者」をグラフ化したものです。先ほどの国公立大(前期)と同様に、2023年度実施の模試での志望者数は2019年のレベルまで「V字回復」しています。

では、一体どれくらいの成績の人が医学科を志望しているのかみてみましょう。以下にグラフを2つお示しします。

<グラフ3>

<グラフ3>第2回全統記述模試 国公立大医学科前期 志望者学力分布のグラフ <グラフ3>第2回全統記述模試 国公立大医学科前期 志望者学力分布のグラフ

<グラフ4>

<グラフ4>第2回全統記述模試 私立大医学科 一般選抜 志望者学力分布のグラフ <グラフ4>第2回全統記述模試 私立大医学科 一般選抜 志望者学力分布のグラフ

<グラフ3>と<グラフ4>はそれぞれ、「国公立大前期」と「私立大一般選抜」の医学科を模試で志望している人たちがどのくらいの成績に位置しているか「偏差値」を使用してグラフ化したものです。得点ではなく偏差値を使用してグラフを描いたのは、平均点が上下してもグラフの山の出方が左右されにくいためです。

このグラフを見ると高さ(志望者人数)が増加しているのは、大体「偏差値60.0〜62.5」のあたりですから、「成績上位者はやや減少」しており、むしろ「医学科受験ギリギリの成績の人たちの競走倍率が高くなる」ことが想定されます。
かつて医学科受験生は「センター試験9割以上、二次偏差値67.5以上」と言われたものですが、今はそこまでなくても合格見込みが出るようになりました。といっても極端に「易化」したわけではないので、受験生をうまく指導して大学選択することはベテランの指導者であってもそれなりに難しいといえるでしょう。

具体的な大学イメージ

では、全国の国公立大・私立大の医学科の難度を一覧表でイメージしてみましょう。まずは以下に国公立大の前期試験の全49大学お示しします。

<表1>

<表1>2024 予想ボーダー得点率 2024 予想二次ランク(偏差値)の表 <表1>2024 予想ボーダー得点率 2024 予想二次ランク(偏差値)の表

<表1>は国公立大医学科前期試験の難度マトリックス(2024年度予想)です。縦の「上下位置」が共通テストの「予想ボーダー得点率」で、「上ほど高い」「下ほど低い」…状態です。次に横の「左右の位置」が「予想二次ランク」で、「右ほど高い」「左ほど低い」…状態です。
つまり、この表は「右の上ほど難度が高い」「左の下ほど難度が低い」という見方の表です。この表の前期試験の国公立大医学科は49大学あるのですが、一口に「医学科」といってもこれくらいの難度格差があるわけです。

一部には入試科目が2024年度より変化するため、それを加味して難度を設定してある大学も存在します。具体的には、この中で山形大は昨年まで二次試験で課していた国語を廃止し、二次試験が1科目減少しました。2024年度は「英語・数学・理科・面接」で二次試験が行われます。本来なら科目が減少すれば志望者は増加しそうですが、この模試ではそのような動きを見出すことができませんでした。もともと山形大を第一志望にすることはこの時期には少なく、上位大学に第一志望が偏ってしまっていることが原因でしょう。山形大は結果的に1科目減少した程度では顕著な動きにつながらなかったものと思われますが、共通テスト本番の直後には受験生の動きには注意が必要です。
また、奈良県立医大は昨年まで実施していた「英語・数学・理科・面接」の試験科目を「小論文・面接」に変更することになりました。前期試験にも関わらず、この大学の定員はもともとわずか22名しかありません。そこにさらに学科試験以外に入試科目を変更するのですから、本気で医学科に合格したい受験生からすれば、自分の人生を賭けて出願するにはやや博打的な要素を含む入試…のように感じます。「奈良県立医大の志願者は来年はどうなるか」というご質問をよく頂戴しますが、出題傾向がはっきりと見えてこないことや定員の少なさを考えると、予備校の人間たちの間では「積極的に受験を勧めたくない入試」と位置付けられています。

さて、実際にはこの難度マトリックスだけで出願大学を決めることはできません。この他の検討材料として例えば「大学の出題される問題の難度」などもありますから、受験生は過去問を解いた手応えなどを加味しながら、それらを縦横に検討しつつ出願大学を決定していく手順を踏まなければならないでしょう。

<表2>

<表2>2024 予想ボーダー得点率 二次が「学科試験以外」の大学 2024 予想ボーダー得点率 二次が「学科試験」の大学の予想二次ランクの表 <表2>2024 予想ボーダー得点率 二次が「学科試験以外」の大学 2024 予想ボーダー得点率 二次が「学科試験」の大学の予想二次ランクの表

<表2>は全国の国公立大医学科の16の後期試験大学です。後期試験は前期と違って大学数が少ないことが特徴です。また、ボーダーラインは前期試験よりも高く、二次試験に学科試験を課す大学はわずか5つしかありませんから、大学選択は前期試験より難しいといえるでしょう。因みに後期試験においては山梨大が昨年までの「数学・理科・面接」に「英語」を加えることになりましたから、やや出願者の傾向が変わる可能性があります。

<表3>

<表3>予想ランク 偏差値の表 <表3>予想ランク 偏差値の表

<表3>は私立大の一般選抜の難度表です。偏差値62.5がランクになっている大学がここ数年で非常に増加しました。しかし、現実にはこれらのランク表よりも実質的には「やや下のランクに寄っている大学」もあります。詳細をここに記述することはできませんが、実際に出願される際にはよく指導を受けることをお勧めします。

12月にはいよいよ出願面談が高校や予備校・塾などで開始されるでしょう。私立大の出願先は具体的にこの面談で決定していく必要がありますし、国公立大はそろそろ出願候補の大学を検討しなくてはならないでしょう。調査書の手配、願書記入もしくはWebでの出願手続き、志望理由書の作成など多岐にわたる事務的なことが増加してくる季節です。受験生は学習のみに専念できないと気がそぞろになるように思うでしょうが、受験生なら出願手続きはご自身で行なっていただきたいものです。

自分が受験する大学に想いを馳せ、過去問と真剣に向き合う時間を取ること、その大学に出願するかどうかを担任や指導者に意見を求めて具体的に自分自身の学力と照らし合わせて検討すること…。出願大学の決定と出願手続きは、学習以上に受験に必要なメンタルなプロセスを含んでいます。これもまた人生の訓練です。学力+人間力を作ることを目指し、年度後半の受験準備を進めたいものです。